BME 6 Lipid bi-layer


4、生体膜(細胞膜)

生体膜の一つである細胞膜は環境(外界)と細胞を区切る働きをし、細胞内の生化学反応系を外部から独立させている。これにより、必要な化学物質の拡散を防ぎ、代謝を維持できる。しかし、生体膜の働きは単に物理的区切りとしての機能だけではない。膜タンパクの発見、膜受容体、呼吸鎖、光合成系の研究により生体膜は信号処理装置とエネルギー生産プラントとしての働きを持つ、非常に機能的な装置であることが分かってきた。また細胞膜にはそれ以外にも外部との物質交換を行う選択的な関門でもある。ここでは生体膜の構造と機能について見ていく。


1,生体膜の構成物質

生体膜は脂質と膜タンパク質、ペリフェラルタンパクから構成されている。更に、脂質、タンパクの中には糖鎖を結合したものもある。

脂質

脂質は親水的な分子構造と疎水的な分子構造を同じ分子内に持つ両親媒性物質である。その構成は様々であるが、いくつかの分子主に分類できる。

リン脂質

リン酸を親水部にもつ脂質で、グリセリンの3つの水酸基の内端の一つにリン酸、残りに脂肪酸がエステル結合している。脂肪酸は炭素数12ー18程度の飽和、および不飽和の炭素鎖の端にカルボン酸がついた分子で、疎水的な分子と考えられる。

脂肪酸

飽和脂肪酸

ラウリン酸

CH3(CH2)10COOH

ミリスチン酸

CH3(CH2)12COOH

パルミチン酸

CH3(CH2)14COOH

ステアリン酸

CH3(CH2)16COOH

不飽和脂肪酸

パルミトレイン酸

CH3(CH2)5CH=CH(CH2)7COOH

オレイン酸

CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH

アラキドン酸

CH3(CH2)4(CH=CHCH2)4(CH2)2COOH

リノール酸

CH3(CH2)4(CH=CHCH2)2(CH2)6COOH

リノレン酸

CH3CH2(CH=CHCH2)3(CH2)6COOH

 

リン脂質の親水部をなすリン酸には、更にいくつかの分子構造が結合し、その種類によってそれぞれ、フォスファチヂル−コリンPC,エタノールアミンPE、セリンPS、イノシトールPI、グリセロールPGなどがある。

 

コレステロール

一端に親水性のOH基を持つ平面状の多環化合物で、ステロイドホルモンの原料となる。

 

 

スフィンゴ脂質

スフィンゴシン、スフィンゴミエリンなどの総称

糖鎖を含むものもある。ー>スフィンゴ糖脂質

 

膜タンパク

 生体膜には多量のタンパク分子が存在し、中にはミトコンドリアの様に質量比ではタンパク:脂質=4:1のような膜も存在する。

 膜タンパクは、溶液中に存在する可溶性タンパクと基本的には同じものであるが、異なる点はERのリボソームで合成され、合成直後から膜に組み込まれたかたちで存在する。その構造は膜中で安定化するようになっている。このため膜タンパクには必ず疎水部分があって、そこが膜に埋め込まれている。イオンチャンネル、膜受容体などは膜タンパクの代表的なものである。

 膜には膜中に埋め込まれた膜タンパクの他に表面に付着している表在性タンパク(ペリフェラルプロテイン)も存在する。これらの実体は不明な点が多い。実際に膜の表面にあるのかも確認されにくい。実際は、細胞からの分画において膜と同じ挙動をするものを指す。実際に膜への付着が確認されているものでは、細胞膜の裏打ちタンパクがある。これは膜の原形質側で網目構造を取り、細胞膜の強度を高め、細胞骨格の足場となり、膜タンパクの局在化の手がかりとなる。また、食作用に関わるタンパクも裏打ちタンパクと同じように細胞膜の上で網目構造を取るものと思われる。

 

2,生体膜の構造と働き

 生体膜は化学結合のようなリジッドな結合ではなく、疎水性相互作用によって分子が集合したものである。このため膜には流動性があり、膜内部での分子の移動、膜の破壊、再構成、膜を通した低分子の移動が可能である。生体膜はこれらの特徴を利用して生体の機能を維持している。

脂質だけで構成された膜について考えてみる。代表的なリン脂質であるPCで構成された膜は水中では親水部を外に向け、疎水部を中にして図のような構造を取っている。膜の厚さは50〜80オングストローム程度しかない。

脂質二重膜

 この様な膜構造を脂質2重膜と呼んでいる。脂質2重膜は分子同士の結合がないので分子は膜ないで自由に移動できる(ラテラルディフージョン)。また、膜は自由に変形できるため、圧力がかからない限り、簡単に壊れることはない。

電子伝達系においては、個々の機能分子は膜内に分散していて熱運動によって互いにぶつかりあっている。化学反応により活性化状態になるとぶつかったときに反応が進み、電子が伝達される。ミトコンドリアの内膜では、この様な反応の連続により、呼吸が行われる。

細胞分裂時には膜は二つに分けられなければならない。脂質の量自体は合成で増やせる。一方、物理的に膜を分け機構は、マイクロチューブによっている。二つに分かれる細胞の境目の赤道面に沿ってマイクロチューブが何重にかループを作り、それが縮まる力を利用して膜が分けられる。膜が柔軟であり、また最後に破壊された時点で、水中で安定化するため、最も近い他の膜部分と再度結合、膜を再構成する(ものと思われる)。膜の再結合機構は細胞内の物質輸送、食作用、ウィルスの感染などでもしばしば利用されている。この際には膜と結合するタンパク質が働いている。

 

3、糖鎖

糖といえばエネルギー源としてのブドウ糖(グルコース)が有名であるが、生体内ではそれ以外にも重要な働きを担っている。

a,糖の役割

エネルギー源

グルコースはTCAサイクルにおいて分解され、水と二酸化炭素に成る過程でATPにエネルギーを受け渡す。

ATP

 

それ以外の糖でも、分解されてブドウ糖を生成し、エネルギー源となるものがある。(しょ糖、デンプンなど)しかし、生体内で分解できない糖もあり、その場合は栄養素としての役割は果たさない。(マンノース、セルロース)セルロースはグルコースの重合体であるが、デンプンとは結合の仕方が違っていて、通常は生物が分解することが難しい。

デンプン

セルロース

 

細胞外マトリクス

セルロースは植物の個体構造を維持する、細胞外マトリクスである。セルロースはグルコースの多量体でありながら、bーグルコシド結合を作っているため、普通の動物の分解酵素では分解できず、非常に安定である。

草食動物は腸内にb-グルコシダーゼを持つ最近を大量に持つことにより、セルロースを分解してエネルギー源としている。

 

表面抗原

生体膜の脂質、タンパク質の中には複雑な構造の糖鎖を持つものがある。このような糖鎖は細胞間、免疫系などでの細胞認識において重要な役割を果たしている。多細胞生物の体細胞は分化して各組織内においてそれぞれの役割を担っている。このため一部の細胞(血球、免疫細胞、繊維芽細胞)を除けば自分の居場所を離れて動き回ることはない。このような細胞ごとの役割は、発生段階で、細胞間の情報伝達によって割り振られ順次決まっていき、最終的に成体となったときに確定する。細胞間の情報伝達手段としては、遺伝子によって発現を制御された可溶性因子(タンパク、低分子などのホルモン)と、それらによって更に誘導される細胞表面抗原かある。細胞間で正しい表面抗原が互いに認識されないと、細胞はその位置に安定してとどまることはできない。組織の再生はこのような原理によってなされる。免疫における拒絶反応も同様の原理によっていて、自己ではない細胞の表面抗原を認識して免疫系が活性化され、組織の拒絶が起きる。

この細胞間の認識において、糖鎖構造が大きな役割を持っている。タンパク、脂質ごとに付加される糖鎖の構造はそれぞれ異なり、また生物の個体ごと、細胞の分化状態ごとに違ってくる。それに対する認識は立体構造と電気的な分極が適合しないと起きない。つまり糖抗原は細胞間認識の鍵の役割を果たしている。ガン細胞では糖鎖構造が変化し、それによって異組織への浸潤が可能になるものと考えられる。つまり癌の転移は糖鎖構造の変化が一つの原因となっている。

糖鎖が表面抗原や細胞間情報伝達、タンパクの補欠分子として使われるかはわからない。しかし、糖には、物理的に壊されにくい、立体構造が比較的リジッドでステレオ構造認識に向くなどに理由が推測される。

 

b,糖鎖の構造

糖鎖は栄養源となるもの(デンプン)や細胞外マトリクスとして構造を作る(セルロース)比較的自由な構造のものと、表面抗原のようにある決まった構造をとるものがある。特に表面抗原は免疫機能や細胞間の信号など、多細胞生物の生体を維持する上で非常に重要な役割を担っている。例えば血液型も赤血球表面の糖鎖構造で決定されている。

表面抗原の糖鎖を構成する糖はすでに出てきたマンノースやガラクトースの他に、Nアセチルグルコースアミン(GlcNAC)や負電荷を持ったノイラミン酸(Neu)などがある。

Nアセチルグルコースアミン

ノイラミン酸

 

糖脂質

すでに述べたスフィンゴリピッドに結合する糖鎖。

糖蛋白

タンパク質に結合する糖鎖は大きくアスパラギン(Asn)結合型糖鎖とセリン・スレオニン(Ser/Thr)結合型糖鎖に分けられる。アスパラギン結合型糖鎖はマンノースを基本骨格とする大きな構造を持つが、末端の糖鎖構造はセリンスレオニン型と共通点を持つ。

 

c,糖鎖の合成

複雑な構造をした糖鎖は、主にゴルジ体で合成される。合成されたタンパク、脂質がERからゴルジ体に細胞内輸送されると、各コンパートメント内の糖分解、転移酵素が糖鎖の末端を認識して処理を行う。糖鎖の構造はゴルジ体内での糖の分解、転移酵素の発現と局在によって決まることになる。

 例えば上の図のようなアスパラギン結合型糖鎖ははじめマンノース骨格を持っているが、それがゴルジ体のコンパートメントを経由して輸送されながら、コンパートメント内の酵素により、末端のマンノース分解、ガラクトース、Nアセチルノイラミン酸の付加を受けて成熟した糖鎖構造を持つ。最終的に糖鎖を付加された脂質、タンパクは細胞膜表面に輸送されて細胞間の鍵の機構を果たす。

 


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